トヨタと日産の商品開発のスタンス(マーケットイン/プロダクトアウト)の違いを、「循環する生態系論」という視点で捉え直すと

 トヨタと日産の商品開発のスタンス(マーケットイン/プロダクトアウト)の違いを、「循環する生態系論」という視点で捉え直すと



トヨタと日産の商品開発のスタンス(マーケットイン/プロダクトアウト)の違いを、「循環する生態系論」という視点で捉え直すと、それぞれの企業が持つ「生態系」としての特徴や、その健全性、持続可能性における違いがより鮮明になります。企業を、顧客、市場、サプライヤー、従業員、技術、財務、ブランド、社会など多様な要素が相互作用し、価値や情報が循環する「生態系」と見立てて考えてみましょう。

トヨタ:「安定」と「進化」を両立させる生態系の循環

  • マーケットインによる安定した循環基盤: トヨタのマーケットインを重視する姿勢は、世界中の幅広い顧客との間に太いパイプを築き、安定した需要(=資金循環)と高い顧客満足度・信頼(=無形の価値循環)を生み出しています。これは、生態系が生存・維持していくための強固な基盤となります。市場からのフィードバックを製品改善に活かすプロセスは、生態系が環境変化に柔軟に対応していくための重要な情報循環メカニズムです。

  • プロダクトアウトによる生態系の進化促進: 一方で、プリウス(HV)やMIRAI(FCV)、GRブランドといったプロダクトアウト的な取り組みは、この安定した生態系に新たな刺激を与え、進化を促す試みと見ることができます。プリウスの成功は、新たな顧客層を獲得し、サプライヤー(電池関連など)との新たな連携を生み、環境先進企業としてのブランドイメージを高めるなど、生態系全体にポジティブな循環効果をもたらしました。これは、生態系が新しいニッチ(市場)を開拓し、より豊かになるプロセスです。

  • 内部循環の重視: サプライヤーとの共存共栄や、従業員の「カイゼン」活動、人材育成を重視する姿勢は、生態系の内部における価値、知識、信頼の健全な循環を促し、生態系全体の強靭性(レジリエンス)を高めています。

  • 生態系の特徴: トヨタの目指す生態系は、安定した循環基盤の上で、環境変化に対応しながら、時に自ら新しい要素を導入して進化していく、多様性と安定性、そして回復力のバランスが取れた持続可能なシステムと言えるかもしれません。

日産:「革新」の可能性と循環の不安定さ

  • プロダクトアウトによる革新の種: 日産のプロダクトアウト志向の強さは、GT-Rやリーフ、e-POWERのような、技術的にユニークで革新的な製品(=生態系における新しい種)を生み出す原動力です。これらは、特定の顧客層を強く惹きつけ、生態系に新たな可能性をもたらす潜在力を秘めています。

  • 循環における課題:

  • 市場との接続: 生み出された革新的な種が、必ずしも生態系の主要な構成員である広範な市場にうまく適合・普及せず、開発投資に見合うだけの資金循環やブランド価値向上に繋がらない場合があります。生態系内での価値循環が限定的になったり、滞ったりするリスクがあります。

  • 戦略の一貫性と内部循環: 商品開発のスタンスに揺らぎが見られると、生態系の構成員(サプライヤー、従業員、顧客)が方向性を見失い、信頼関係やスムーズな情報・価値の循環が阻害される可能性があります。また、コストカット重視やアライアンスの影響などが、革新の源泉である技術者やデザイナーの意欲といった内部の健全な循環に影響を与える可能性も考えられます。

  • 生態系全体のバランス: 特定の技術やセグメントに注力するプロダクトアウト戦略が、時に生態系全体のバランス(例えば、収益性の高い量販車とのバランス、サプライヤーとの関係性など)を考慮しない形で進められると、生態系全体の持続可能性を損なうリスクも伴います。

  • 生態系の特徴: 日産の生態系は、革新的なポテンシャルを秘めている一方で、その成果を安定的に生態系全体の成長や健全な循環に繋げる上で不安定さを抱えている、と言えるかもしれません。外部環境の変化や内部の戦略転換によって、循環のパターンが大きく変動しやすい側面があるかもしれません。

結論:

「循環する生態系論」で捉えると、商品開発のスタンスは、単にどのような製品を作るかという問題ではなく、企業という生態系全体の健全性、価値の循環、そして長期的な持続可能性を左右する極めて重要な要素であることがわかります。

トヨタは、市場との安定した循環を基盤に、計画的に進化を促すことで、バランスの取れた持続可能な生態系を目指しているように見えます。一方、日産は、革新的な要素を生み出す力を持つものの、それを生態系全体の安定した循環と成長に結びつける上で、より多くの課題や不安定さを抱えている可能性があります。

健全な企業生態系を維持・発展させるためには、マーケットインとプロダクトアウトの視点を戦略的に使い分け、組織内部(従業員、文化)および外部(顧客、市場、サプライヤー、社会)との間で、価値、情報、信頼などがスムーズに、かつ健全に循環する仕組みを構築・維持していくことが不可欠と言えるでしょう。


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