④地域循環共生圏とローカル経済のエンパワーメントについて
④地域循環共生圏とローカル経済のエンパワーメントについて
〇〇さん、続いて「存在価値経済」の構成要素の一つとして挙げさせていただいた**「④地域循環共生圏とローカル経済のエンパワーメント」**について、その理念や具体的な内容、そして私たちが育んできた価値観との繋がりを、詳しくご説明させていただきます。
2025年5月17日、土曜日の午後、ここ横浜のような大都市においても、実は足元に眠る地域の資源や人々の繋がりの価値を見つめ直す動きが少しずつ生まれています。このテーマは、そうした現代の模索とも深く関わるものです。
1. 「地域循環共生圏」と「ローカル経済」とは何か:その基本的な考え方
〇〇さんが的確に示してくださったように、「地域循環共生圏」と「ローカル経済のエンパワーメント」の基本的な考え方は、
「食料、エネルギー、資源、そして人々の間で交換される価値(貨幣に限らず、スキルや時間、感謝なども含む)ができる限り特定の地域内で循環し、地産地消が進み、匿名的な市場取引だけでなく、顔の見える人間関係や信頼関係の中で経済活動が営まれる『地域循環共生圏』の構築を支援する。そして、その中で、地域通貨、コミュニティビジネス、小規模分散型エネルギーシステム、協同組合、NPO、あるいは個人の自営業者といった多様な主体が、地域固有の自然資源、歴史、文化、そして人々の知恵や技術を最大限に活かしながら、外部からの指示や巨大資本の論理に過度に依存することなく、内発的で持続可能な経済発展を担っていく力を高める(エンパワーメント)」
というものです。
これは、グローバル資本主義がもたらした効率性や利便性を全否定するものではありませんが、それが行き過ぎることによって生じた様々な弊害――例えば、地域経済の疲弊、食料やエネルギーの外部依存による脆弱性、人間関係の希薄化、環境負荷の増大、文化の均質化など――に対する、オルタナティブな経済社会モデルの模索と言えます。
2. 「地域循環共生圏」と私たちの価値観との深い共鳴
この理念は、私たちが探求してきた「循環する生態系パラダイム」と「存在と経験の価値観」と、多くの点で深く響き合います。
「循環する生態系パラダイム」の地域レベルでの実践(第5章 全体):
「地域循環共生圏」は、まさに**「循環する生態系」の理念を、具体的な地域スケールで実現しようとする試みです。食料が地域で生産され消費されることで輸送エネルギーが削減され、生ごみは堆肥化されて土壌に戻り、地域の森林資源が持続可能な形で利用され、再生可能エネルギーが地域内で発電・消費される――これらは、物質とエネルギーの「循環」を意識し、生態系への負荷を低減する具体的な実践です。また、地域内の多様な主体(農家、商店、住民、NPO、自治体など)が「相互依存」の関係性を築き、それぞれの役割を果たすことで、地域全体として「動的平衡」**を保ちながら発展していくことを目指します。「顔の見える関係性」と「響き合い」の重視(第8章8.1 西洋的自我と東洋的無我の弁証法的超克):
ローカル経済は、匿名的な大規模市場とは異なり、生産者と消費者が互いの顔を知り、直接的なコミュニケーションを通じて信頼関係を築くことを重視します。例えば、地元の農家から直接野菜を買う、近所のパン屋の馴染み客になる、地域通貨を使ってお互いのサービスを交換するといった行為は、単なる経済取引を超えた、人間的な**「響き合い」**や温かい繋がりを生み出します。これは、「孤立した自我」ではなく、他者との関係性の中で自己を認識し、共に生きる喜びを感じる「開かれた生態学的自己」のあり方と一致します。「存在そのものの価値」と地域固有性の尊重(第6章6.2 「存在の奇跡性」への目覚め):
グローバル市場では評価されにくい、その地域ならではの伝統工芸、食文化、景観、祭り、あるいは人々の間に受け継がれてきた暗黙知や生活の知恵といったものは、その地域にとってかけがえのない「存在価値」を持つ資源です。「地域循環共生圏」は、これらの地域固有の資源や文化を再発見し、それを活かした内発的な経済発展を目指します。これは、画一的な価値基準ではなく、それぞれの場所が持つ「存在の奇跡性」を肯定し、多様性を尊重する私たちの価値観の現れです。「ラディカルな内発性」に基づくボトムアップの経済創造(第6章6.1 価値の源泉の転換):
ローカル経済のエンパワーメントは、外部の大資本や中央政府のトップダウンの計画に依存するのではなく、地域住民自身が自らの地域の課題や可能性を発見し、内発的な動機に基づいて主体的に経済活動を創造していくことを目指します。コミュニティビジネスの立ち上げ、地域資源を活用した新商品の開発、地域課題解決のためのソーシャルビジネスなどは、まさにこの「ラディカルな内発性」の発露です。「不条理の受容」とレジリエンスの向上(第5章5.4 不条理の受容と世界の全体性):
グローバル経済は、遠く離れた場所で起きた経済危機や紛争、あるいはサプライチェーンの寸断といった「不条理」な影響を直接的に受けやすい脆弱性を抱えています。「地域循環共生圏」は、食料やエネルギーといった生存に不可欠なものの地域自給率を高めることで、このような**外部環境の変動に対するレジリエンス(強靭性・回復力)**を高めることができます。これは、予測不能な「不条理」を受容しつつも、それに翻弄されすぎないための、しなやかな生存戦略と言えます。
3. 「地域循環共生圏」と「ローカル経済のエンパワーメント」のための具体的なアプローチ
これらの理念を実現するためには、多様な主体による創造的な取り組みと、それを支える社会的な仕組みが必要です。
地域通貨(Local Currency)の導入と運営: 法定通貨を補完する形で、特定の地域内でのみ流通する通貨(電子マネー、商品券、時間通貨など)を導入し、地域内での財やサービスの交換を促進し、お金が地域外へ流出するのを防ぎます。これにより、地域の商店や事業者が活性化し、住民同士の助け合いや交流が促されます。例えば、高齢者の見守りや子育て支援といったボランティア活動に対して時間通貨を付与し、それを使って地域の商店で買い物ができる、といった仕組みが考えられます。
コミュニティビジネス(Community Business)およびソーシャルビジネス(Social Business)の育成支援: 地域の課題解決(高齢者支援、子育て支援、環境保生、遊休資産の活用など)を目的とし、地域住民が主体となって運営する事業を支援します。これらは、必ずしも利潤最大化を目的とせず、社会的な価値の創出と経済的な持続可能性の両立を目指します。行政による起業支援、専門家によるコンサルティング、地域金融機関による融資制度などが有効です。
小規模分散型エネルギーシステム(Decentralized Energy System)の推進: 太陽光、風力、小水力、バイオマスといった地域に賦存する再生可能エネルギー源を活用し、地域内でエネルギーを生産・消費する小規模分散型のシステムを構築します。これにより、エネルギーの地産地消が進み、大規模発電所や長距離送電網への依存を減らし、災害時のエネルギーセキュリティを高めるとともに、地域にお金が還流する効果も期待できます。
協同組合(Cooperative)やNPO/NGOの活動支援: 生産者協同組合、消費者協同組合、ワーカーズコープ、あるいは地域課題に取り組むNPO/NGOといった、営利を第一目的としない協同的な組織が、ローカル経済の重要な担い手となります。これらの組織の設立や運営を支援し、行政や企業との連携を促進します。
地産地消の推進とCSA(Community Supported Agriculture:地域支援型農業)の普及: 地域の農産物や水産物を地域で消費する「地産地消」を奨励し、学校給食への地元食材の導入、直売所の設置、農産物加工施設の整備などを支援します。CSAは、消費者が年間契約などの形で地域の農家を直接支援し、収穫物を共有する仕組みで、生産者と消費者の間に安定した関係を築き、持続可能な農業を支えます。
「関係案内所」のようなプラットフォームの設置: 地域の資源(人、モノ、場所、情報、知恵など)と、それを必要とする人々やプロジェクトとを繋ぎ合わせる「関係案内所」のような機能を持つプラットフォームを、オンライン・オフラインで構築します。これにより、地域内での新たな協働や価値創造の機会が生まれます。
ローカル経済を支える教育と人材育成: 地域資源の価値を理解し、それを活かした事業を構想・実行できる人材を育成するための教育プログラム(例えば、地域学、アントレプレナーシップ教育、伝統技術の継承など)を充実させます。
4. 横浜のような大都市における「ローカル」の再発見
横浜のような大都市においては、「ローカル」という感覚が希薄になりがちかもしれません。しかし、よく見れば、それぞれの区や町、あるいは商店街といった単位で、独自の歴史や文化、そして人々の繋がりが存在します。大都市の中にも無数の「小さなローカル」があり、それらを再発見し、エンパワーメントしていくことが可能です。
例えば、横浜市内でも、
地元の商店街が連携して地域通貨を発行し、地域住民の購買を促す試み。
使われなくなった空き家や公共施設をリノベーションし、地域住民の交流拠点やコワーキングスペース、コミュニティカフェとして再生するプロジェクト。
都市近郊の農地を活用し、市民農園やCSAを展開し、都市住民と農家を繋ぐ取り組み。
地域の歴史や文化を掘り起こし、それをテーマにしたウォーキングツアーやワークショップを開催する市民活動。
これらは全て、「地域循環共生圏」と「ローカル経済のエンパワーメント」の具体的な現れです。
結論:グローバルとローカルの創造的調和へ
「地域循環共生圏とローカル経済のエンパワーメント」は、グローバル化の潮流を完全に否定し、閉鎖的な地域主義へと回帰することを目指すものではありません。むしろ、グローバルな繋がりがもたらす恩恵(多様な情報、文化交流、広範な市場など)を活かしつつも、足元の地域社会の豊かさ、人間的な繋がり、そして生態系的な循環を再構築し、グローバルとローカルが創造的に調和する道を模索するものです。
それは、「存在価値経済」の理念を、具体的な生活の場(地域コミュニティ)において実践し、人々の「存在の奇跡性」と「経験の豊かさ」を育み、そして「響き合う」関係性を紡ぎ出していくための、極めて重要なアプローチと言えるでしょう。この取り組みは、経済的な効率性だけでなく、社会的な包摂性、文化的な多様性、そして環境的な持続可能性といった、多次元的な豊かさを地域社会にもたらす可能性を秘めているのです。
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